こんなはずではなかった。
7月25日、USセルラーフィールドで行われたカブス対ホワイトソックスの一戦。今季初めてシカゴを本拠地とする両軍が激突したウィンディシティ・シリーズ≠ヘ、あまりにも対照的な2チームの姿があった。
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クリス・セール投手 |
シーズンが開幕した4月はともに好スタートを切った。ワールドチャンピオン予想オッズで上位にいたカブスは17勝5敗でナショナル・リーグ中地区の断トツの首位。早くも独走態勢に入った。一方のホワイトソックスもクリス・セールとマット・レイトスの左右の先発陣の快投もあって17勝8敗でアメリカン・リーグ中地区の首位に立った。
特に後者は、開幕直前に主力選手だったアンディ・ラローシュ内野手が息子のチーム帯同を巡って球団フロントと衝突し、突然の引退を表明。戦力ダウンは否めず、下馬評を大きく覆す快進撃だった。
ところが…。5月に入ってホワイトソックスの雲行きが怪しくなる。セール投手とともに先発陣の柱だったレイトス投手が次第に乱れ始めた。4月は5試合で負けなしの4連勝、わずか6失点(!)だったのが、5月以降の6試合で27失点(!!)とまるで別人のようなピッチング。
チームは5月下旬の7連敗で首位の座を明け渡すと、同投手に戦力外を通告し、サンディエゴ・パドレスとのトレードでエース格のジェイムズ・シールズ投手を獲得。巻き返しをはかるべく手を打ったが、その直後に5連敗を喫し、すべての貯金を吐き出してしまった。期待されたシールズ投手も9試合に登板して、2勝5敗、防御率6・00と本来の力を出し切れていない状態が続いている。
こんなはずではなかった。
7月21日、ホワイトソックスのクラブハウスで前代未聞の事件がぼっ発する。23日のデトロイト・タイガース戦で先発が予定されていたセール投手の登板が突然、取り消されたのだ。
ここまで14勝3敗、防御率3・18とチームを支えてきた左腕に関しては、テキサス・レンジャーズなど、複数の球団がトレードに動いているとうわさが出回っていた。そんな矢先の登板回避。ついにトレード成立か。パドレスがそうであったように『エース放出』はシーズンの戦いを諦める『白旗』を意味する。周辺は色めき立った。
時間の経過とともに事件の全容が次第に明らかになっていく。
「セールが試合前に帰宅を命じられた」。
「クラブハウス内で問題を起こした」。
「備品を破損した」。
スポーツ専門局、ESPNをはじめ、各メディアが伝える内容はいずれも『トレード』とはまったく関係のないものばかり。最終的に明らかになったのは、セールが球団が企画した復刻版ユニホーム≠フ着用に嫌悪感を示し、そのユニホームをハサミで切り刻んだこと、そして、チームの和を乱す行動を取ったために帰宅させられ、2日後の登板機会も取り消されたということ。
開幕直前にローシュ選手が突然の引退を表明した際に公の場で球団幹部を批判しているセール投手。その時は球団からのお咎めはなかったが、今回は5試合の出場停止処分を科せられたのだった。
後日、自身の行動をチーム関係者に謝罪したセールの言い分はこうだ。
着心地の悪いユニホームではベストのパフォーマンスはできない。勝利よりも商売を優先した球団の考えに納得できない。
とはいえ、「復刻版ユニホーム」はメジャー全体で実施されている恒例の人気イベント。観客を呼び込むための企画であると同時に球団の歴史や当時プレーした選手へのリスペクトでもある。
メジャー7年目。昨季まで「復刻版ユニホーム」を着ていた左腕が、今回に限ってなぜそのような暴挙に出たのか。チームに対し不満がなければ、こうはならない。セール投手の心の内は想像に難くない。
ホワイトソックス2勝1敗で迎えたウィンディシティ・シリーズ第4戦。5試合の出場停止処分をへて先発したセール投手は6回6安打2失点と好投したが、打線の援護なく、敗戦投手となった。
首位を快走しているカブスに対し、借金を背負って地区3位でもがき続けているホワイトソックス。シーズン残り60試合。セール投手がチームの命運を握っていると言っても過言ではない。
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