|
NBA(全米プロバスケットボール)史上初の日本人選手として脚光を浴び、昨年12月号でもデビュー戦の模様をお伝えした田臥勇太選手が、現在、独立リーグABA
(American Basketball Association)のロングビーチ・ジャムでプレーしている。というのも、華々しいデビューからわずか1カ月余りで所属していたフェニックス・サンズを解雇されたからだ。
NBAでの出足は快調だった。開幕戦のホークス戦は10分間出場し、7得点、1アシスト。地元のアリーナだけでなく、日本列島もその歴史的快挙で沸かせた。その3日後のネッツ戦でも3分間プレーし、2つのアシストと2つのリバウンドを記録。開幕3試合で2試合に起用され、今後に期待をもたせた。
しかし、試練はすぐに訪れた。開幕から5日目の11月8日にベンチメンバーを外され、故障者リスト入り。「故障」とは名ばかりで、理由は新戦力の獲得。新しく補強した選手のためのベンチ枠を作るために押し出されたのだった。以来、12月中旬までベンチ入りできず、試合は私服での観戦。もちろん、チームの練習には参加していたが、約1カ月ぶりの公式戦となった12月13日のマジック戦では出場時間わずか2分。2日後のジャズ戦でも同じく2分プレーしただけ。開幕から45日後の12月18日に解雇を通告された。
サンズを指揮するダントーニ監督は、身長175?、体重75?田臥を評する時、決まってこう言っていた。
「ユータはユニークな選手。すばらしいスピードとボールをプッシュする(運ぶ)力がある」。
試合の流れが悪くなった時に持ち味のスピードでテンポを変える存在として期待する言葉を常に口にしていたが、田臥が出場した全4試合は、すべて20点以上リードした試合終了間際。いわゆる“Garbage
Time(勝敗が決した時間帯)”だった。試合の流れを変えるためにコートに送り出されることは一度としてなかったのだった。
田臥のポジションは指令塔の役割を担うポイント・ガード(PG)。サンズには先発PGのナッシュ、控えPGのバルボサがおり、本来なら田臥は前の2人のどちらかが不調やけがの時にサポートする3番手のはずだが、ダントーニ監督は先発シューティング・ガード(SG)のジョンソンの名前を出し「場合によっては彼にもPGの役割をやってもらう」と明言。実質“第4PG”としてチームに帯同していた田臥。「ユニーク」という言葉は全く意味をなさないものだった。
しかし、これもすべては田臥が監督の信頼を得ることができなかった結果だ。特にシュート力に関してはこの2年で向上したとはいえ、相手ディフェンスに“怖さ”を与えるほどの域には達していない。ナゲッツには田臥よりひと回り小さい、165?、60?のボイキンスという選手があいる。田臥が03年のナゲッツのキャンプで開幕ロスター争いに敗れた相手でもあるが、2人の決定的な違いは、そのシュート力だ。
昨季のボイキンスはベンチスタートながらシーズン全82に出場し、1試合平均22・5分出場で10・2得点。今季は控えとして同25・1分出場で11・5得点(1月23日現在)。その爆発力は周知の事実で、昨年11月19日のブルズ戦では29分間で32得点をマーク。田臥にはない“怖さ”をもった選手なのだ。
現在、田臥はジャムの先発PGとしてコートに立っている。目的はゲーム・コントロールの力をつけ、その部分をNBAのスカウトにアピールすることだ。1月15日の試合ではプロ入り初めて48分間フル出場し、自己最多の21得点。少しずつではあるが、結果を出し始めている。
そんな矢先の1月19日、ナッシュをけがで欠いたサンズは、田臥を呼び戻すことなく、別のPGと契約を結んだ。もう、“日本人初”という話題性はない。田臥が再び、NBAのコートに立った時こそ、本当に「ユニーク」な存在として認めらたことになる。
|