今回のレポートは、昨年6月に行なわれたSKYTRAX社が運営するワールド・エアライン・アワードで最も優れたビジネスクラス座席に贈られる「ベスト・ビジネスクラス・エアラインシート」賞を日本の航空会社として初めて受賞したJALの新ビジネスクラスシート、JALスカイスイートの体験記です。既に北米でもニューヨーク線やロス線などのビジネスクラスで導入されているJALスカイスイートは、シカゴ−成田間では今年の1月半ばに隔日で導入を開始して以来、今では毎日運航を続けています。
成田発シカゴ行きJL010便のボーイング777−300ERでは、ビジネスクラスの座席は窓側左右2席、中央3席で、横7席となっており、今回の座席はその中央席でした。以前のビジネスクラスであれば、トイレに行くたびに隣の人に立ってもらう必要がる為、敬遠されがちな席でしたが、今回は噂の全席通路側アクセスが採用されているので何の心配もいりません。機内に乗り込むと、まずモニターの大きさにびっくり!クラス最大級の23インチの個人モニターには、「え、これちょっとデカ過ぎるんじゃないの?」と思ったほどですが、実際に座ってみるとこの大きなモニターが採用された理由が分かりました。とにかく、座席の前後が非常に長くてゆったりしているので、椅子からモニターまでにかなり距離があるんです。だからこの大きさがちょうど良いというわけです。
さすがに離陸前から座席をフルフラットにして周りの乗客の嘲笑に耐えるほど厚顔ではないので、ポケットに入っているシートの使用ガイドを見て色々な機能を確認しながら、その時が来るのを大人しく待つ事にしました。そうこうしているうちに、飛行機は成田を飛び立ち、シートベルトを外しても良いというあのディーン♪という音が機内に響きます。そのとたん、右と左のプライバシーパーティションが同時にウィーンと上がっていきます。どうやらお隣さんはリピーターのようで、操作もお手のもの。そして、プライバシーパーティションが上まであがった時は衝撃です。プライバシー性の高さが『ベスト・ビジネスクラス・エアラインシート』賞の評価ポイントだったというのも納得の圧倒的な『個室感』。特に今回座った中央席は通路に面していない分そのプライベート感は通路席以上のはずです。
最初のミールがサーブされるのを待つ間、仕事をする為にサイドテーブルを出してみました。前から倒すタイプではなく、横にあるスロットから出してくるタイプなのですが、予想に反してその取り出しは非常に簡単でした。ボタンを押すように下に一度押してやると、自動的に広がるような仕組みになっています。う〜ん、さすがは折り紙の国。さて、ここで今回是非トライしてみたかった機内インターネットサービスを試してみる事にしました。プランは2種類あって、1時間だけなら11.95ドル、飛んでる間ずっとのプランだと21.95ドルで使い放題です。実際に使用してみた感想ですが、思いのほかハイスピードだったのでビックリしました。通常のネットサーフィンや、メールチェックに関しては全くストレスを感じません。YouTubeなどの動画閲覧も問題なくできましたが、衛星回線を飛行機全員でシェアしていると説明書に書いてあったので、他の人の迷惑にならないように少しだけスピードテストをした後は仕事のメールのみで使いました。機内で仕事をする事が出来ると、到着してからの自由時間も増えますし、滞在時間を有意義に使えるのが嬉しいかぎりです。
集中して仕事をしていると、CAさんが料理を持って近づいてくる気配がしました。以前のシートでは、この時点でラップトップをカバンに入れて片付けなくてはいけなかったのですが、今回座った中央席には頭の後ろに大きめのオーバーヘッドシェルフがあるので、ラップトップはそこへ簡単に収納。おかげで食事が終わると直ぐにまた仕事を始めることが出来ました。
さて、機内食についてですが、前評判が高かったのである程度の予想はしていたものの、その豪華さには目を見張るものがあります。季節感たっぷりの旬の食材ばかりをつかった九つの小鉢膳では、春菊や蕗といった春らしい野菜と一緒に、あおり烏賊や真鯛といった海の幸を9つの違った調理法でそれぞれ味わえます。中でも雲丹を濃厚な風味の胡麻豆腐と一緒に食べる美味餡はひと口食べてう〜んと唸ってしまいました。この日の台の物は肉厚な鶏肉を蕗の薹と味噌焼きにしたものと、桜海老のアクセントが効いている芳醇な烏鰈の餡かけ。ほくほくした大根などの野菜も多いので、日本滞在中にあまり取ることのできなかった繊維質も十分摂取できました。そしてデザートに出てきたマスカルポーネのムースがこれまた秀逸。決して甘すぎない、エアリーでまろやかな美味しさには大感動。お皿を下げにきたCAさんに「これ美味しいですね〜」と声をかけてしまったほどでした。
さ〜て、最初の食事が終わったのでとうとう待望の「フルフラットタイム」。サイドテーブルを片付け、右にあるシートコントローラーのボタンを押して座席をドンドン倒していきます。おお、とうとうこれが夢の180°!勿論背伸びをしても全く大丈夫。それどころか、寝返りを打てるほどのスペースが確保されています。この写真の人のように空のベッドであぐらをかく感覚も新鮮です。
しかし、このJALスカイスイートを100%満喫する為には、頭上の共用収納棚に用意されているエアウィーブ社R製のマットレス(以下「エアウィーブ」)を敷かなくてはなりません。このエアウィーヴはあの浅田真央ちゃんが使っている事でも有名な高反発マットレスで、適度な反発が体重を分散し体の沈み込みを抑えると言われています。腰や背骨にとって理想的な姿勢が取れるらしく、寝返りを打ちやすいのもポイント。実際に自分で敷いて寝てみましたが、あるのと無いのとでは雲泥の差があります。このマットレスを使うことで、シートにある小さな凹凸を全く感じることがなくなりますし、それほど厚いマットレスではないにも関わらず沈み込んでいくような感覚は画期的です。あとでCAさんにお伺いしたところ、まだまだお客さんの半分くらいがこの「エアウィーヴ」を使わず、シートをフルフラットにしただけで寝てしまうそうなのですが、これは絶対トライしてみる価値ありです。
さて、JALのビジネスクラスでは、最初の食事が終わると『Anytime
You Wish』として、到着一時間半まで好きなものを好きなだけ食べられる時間が始まります。この日は、大阪たこ八のミニお好み焼きや、国産牛のおろしポン酢添えのハンバーグなどの他にも醤油ラーメンや山菜うどん、紅ずわい蟹のトマトクリームスパゲティーなど空の上とは思えないような美味しそうなメニューが盛りだくさん。正直全部食べることなんて絶対無理なので、この時ばかりは「もう少しフライトが長ければいいのに。。。」と思ってしまいました。今回取材員が食べた中では東京カレーラボとJALが共同開発した香味カレーライスの『オニオンチキン』と鯛茶漬けがお勧めです。オニオンチキンカレーはかなりの酸味とスパイシーさが本格的なのですが、同時になぜかホッとさせられる不思議な食べ物。元気も出ますし、夜食にはピッタリの一品です。そして壱岐の島茶漬けと名づけられた鯛茶漬けは、塩味のしっかり効いたプリプリの鯛の味を引き立てるためにお茶漬け自体はかなりあっさりめに抑えられています。その優しい味わいに思わずうっとり。魚沼産のコシヒカリは歯応えのある鯛と一緒に食べるお茶漬けに向いているようです。シカゴで帰りを待っている家族にもたべさせてやりたい!
そして、これらの一品料理以外にも、パリを拠点に活躍する料理プロデューサーの狐野扶実子さん監修による和食と洋食の朝食メニューが用意されているのですが、今回は有名なメゾンカイザーのパンが食べてみたかったので、洋食メニューをお願いしました。この日のメインディッシュは、車えびとズッキーニのピスタチオカレー、それとオレンジと人参のムースリーヌといった新鮮で食べた事のない斬新な献立。到着前に最後のサプライズをもらったような感じです。中でも芳醇なのにすっきりした味わいのフロマージュ・ブランは毎朝食べたくなるような美味しさで、寝ぼけ眼だった自分のメモを後で見返すと、「これ、うまい、うまい、うまい!」と殴り書きがしてありました。
そうこうしているうちに、飛行機はオヘア空港に到着。11時間の快適な空の旅は本当にあっという間でした。今回は機内での取材があったので、一応バイブレーションで目覚ましをかけて何度か無理やり起きましたが、そうでもしなければおそらく熟睡したままシカゴに到着してしまったかも知れません。でも、あの美味しい食事の数々を思うと、次回も無理やりにでも起きて食べるべきか。。。それとも到着してからの仕事の為に眠りを優先すべきか。。。私達は、そんな事を迷う時代に来たようです。
さて、飛行機がゲートに到着するちょっと前くらいにCAさんによる機内アナウンスがありました。その時のメッセージは、以前のようなマニュアル的なものではなく、とても自然で季節感のある優しいメッセージでした。確かにシートも機材も新しくなり、ハード面でのおもてなしを十分すぎるほどに感じた旅でしたが、それと同時にそういったソフト面での気配りにも日本人としての細やかさを感じたようで、嬉しい気持ちにさせられて飛行機を後にしました。