米ヤフースポーツのジェフ・パッサン記者が投稿したツイートが瞬く間に拡散されたのは11月末のことだ。
「シアトル・マリナーズがロビンソン・カノ内野手とエドウィン・ディアス投手をニューヨーク・メッツへ放出するトレードを画策している」
その情報にメジャー界が騒然となったのには理由がある。
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フィリーズのジーン・セグラ内野手 |
カノと言えば、ヤンキース時代の2009年にワールドチャンピオンに貢献し、メジャー14年で2078試合、打率・304、311本塁打、1233打点の通算成績を誇るメジャー屈指のベテラン二塁手だ。オールスターゲームにも8回出場しており、人気も兼ね備えている。一方のディアスはカノより一回り若い24歳ながら今季は抑えとしてメジャー最多、球団新記録となる57セーブを挙げ、大ブレークした伸び盛りの投手だ。
チームの主砲とクローザーをセットで放出する。日本では考えられない大胆なトレードは、ここアメリカでも珍しい。しかも、カノは2013年オフに合意した10年2億4000万ドル(約272億円)の契約のうち5年1億2000万ドル(約136億円)を残している。さらに選手側にはトレード拒否権もある。クリアしなければいけない2つの大きな問題。交渉は難航するとみられていた。
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メッツのロビンソン・カノ内野手 |
ところが、およそ1週間後の12月3日、両球団は2対5のトレードが成立したと発表する。マリナーズは2選手と2000万ドル(約22億7000万円)の金銭をつけ、将来有望な若い3選手とジェイ・ブルース外野手(31)とアンソニー・スウォーザック投手(33)のベテラン2選手を獲得した。
その取引きにはちょっとしたウラ≠ェある。実は10月末にメッツのゼネラルマネジャー(GM)に就任したばかりのブロディ・バンワグネン氏は、前職がスポーツエージェントでカノを担当していた。ほれ込んだ選手を自分が築き上げようとしているチームに加えたいと思うのは自然なこと。将来有望な若い3人を失うのは痛かったが、今季は不振にあえぎ、来季以降の年俸あわせて3650万ドル(約41億5000万円)を残すベテラン2人を引き取ってくれるのは渡りに船。抑え不在のチームにあってデェアスに4年の保有権が残っていることも大きかった。マリナーズのジェリー・ディポトGMにとって、カノは前GMが獲ってきた選手であり、今季途中に薬物規定違反を犯している点も決定打になっている。
マリナーズは今回のトレードで6400万ドル(約67億5000万円)の年俸″減に成功。これで今オフのチームの目的は補強ではなく、解体&再建であることは明確になったが、メッツと同じ日に発表されたフィラデルフィア・フィリーズとのトレード内容に周囲はその本気度を思い知ることになる。
マリナーズが放出したのは今季チーム最高打率をマークしたジーン・セグラ遊撃手(28)と2人の中継ぎ投手だ。3選手との交換で獲得したのはカルロス・サンタナ一塁手(32)とJP・クロフォード遊撃手(23)。セグラの残りの契約は4年5940万ドル(約67億5000万円)でサンタナは2年3950万ドル(約44億8000万円)。単純計算で22億円を浮かせたことになる。
ちなみにセグラはカノとは違い、ディポトGMがわずか1年前に自らの意思で獲得した選手だ。しかも好成績を残しており、この取引に大きな矛盾を感じるかもしれないが、ここでもやむを得ない事情がある。今季のマリナーズは2001年以来、17年ぶりのポストシーズンに向かって勝ち星を積み上げてきたが、勝負どころの8月に失速。それと同時にチーム内の雰囲気は悪化し、ついに爆発してしまう。シアトルの地元紙の報道によると、あるプレーを巡ってクラブハウス内でセグラとディー・ゴードン中堅手が大げんかをしたのだという。そこで雨降って地固まる、となれば美談だったが、チームは復調のきっかけをつかめないまま、地区3位でシーズンを終えたのだった。
俊足堅守のゴードンの残りの契約は2年2750万ドル(約31億2000万円)。球団は両者の関係の完全修復は不可能と判断したのだろう。ゴードン獲得に動く球団がなかったのは2年前に薬物規定違反を犯し、以降の成績が下降気味なのも理由だろう。
2013年オフにマリナーズのユニホームに袖を通した際にはシアトル愛≠口にしていたカノが、全球団に対して有していたトレード拒否権をあっさり破棄したのは今季のチーム事情と『今後』を見極めた結果であることは間違いない。
今オフ早くも6件のトレードを成立させているマリナーズ、新GMを迎えたメッツ、そして、若い力の台頭で的確な補強を続けているフィリーズ。選手会が問題視するなど、物議を醸した12月3日のトレードの主役だった3球団の来季の戦いぶり、そして、今後、どのようなチームになっていくのかを見守っていきたい。
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