メジャーリーグ(MLB)で日本選手の活躍を楽しみにしている人たちにとって今季もっとも悲しい日になったのではないだろうか。
6月8日。2人の人気選手が相次いで故障者リスト(DL)に入った。
1人はロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手。投手と打者、2つの役割を一人でこなす、言わずと知れた二刀流選手だ。昨年のオフに北海道日本ハムファイターズからメジャーリーグへ移籍し、ベーブ・ルース以来、100年ぶりの本格的二刀流選手として大きな注目を集めてきた。日本ではスポーツニュースのみならず、ワイドショーでも連日、その試合内容が取り上げられるほど、社会現象にもなっている選手だ。
6月6日、アナハイムのエンゼルスタジアムで行われたエンゼルス対カンザスシティ・ロイヤルズ戦。エンゼルスのマーティン・マルドナード捕手が突然、立ち上がったのは5回、大谷選手が投球練習をしている最中だった。三塁側ベンチのマイク・ソーシア監督に向かってマウンドに行くように合図する。ミットを振るジェスチャーの動きの速さがその緊急性を物語っていた。
5月20日のタンパベイ・レイズ戦では移籍後最多の110球を投げている大谷投手はわずか63球で降板。球団から発表された交代理由は右手中指のマメだった。試合後の監督会見でマイク・ソーシア監督から患部を悪化させないための措置として早期降板を決めたことなどが説明された。
ところが、その裏で重大な事実が隠されていた。2日後、球団から発表されたのは右肘の靭帯損傷による10日間のDL入り。エンゼルスのビリー・エプラーGMは、同投手がマメで降板した後に右肘の張りを訴え、翌日に精密検査を受けたことを明かした。肘や肩のけがは投手生命にかかわる一大事。エンゼルスは今後3週間、大谷選手にボールを投げること、バットを振ることをさせず、治療に専念させる方針を明らかにした。
患部の細胞を活性、再生させるための注射を打つ保存療法。3週間の経過を見て今後の方向性を決めるとの説明があったにもかかわらず、一部の米メディアは「手術の必要性があるだろう」と報道。それに対して球団が慌てて否定する、といった一連の流れは大谷選手への注目度の高さを証明している。
改善が見られれば、そこからリハビリを開始。打者としては7月上旬の復帰も可能だろうが、投手としては肘や肩を強化し、けがをする前の状態に戻す必要があるため、順調に回復すれば二刀流のパフォーマンスを見られるのは早くても7月後半だ。全国紙のUSAトゥデーがネット版で「エンゼルスにとってだけでなく、MLBにとっても大打撃だ」と報じるほど、周囲に与えたインパクトは大きかった。
思い出されるのは、2014年7月。メジャー1年目だったニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手のDL入りだ。球団から発表されたのは、右肘の内側側副靭帯の部分断裂だった。大谷選手と同じPRP注射による保存療法を受けたが、当時も今回と同じように米メディアはこぞって手術報道=B投手にとって肩、肘のけがは不可避にもかかわらず、7年1億5500万ドルの大型契約だったこともあり、同投手は叩かれた。
大谷投手がDLした同じ日にけがをしたのはその田中投手だ。ニューヨーク・メッツ戦の6回の攻撃で三塁走者として本塁へ走り込んだ際に両脚のハムストリングを痛め、そのまま降板。翌日、DL入りが発表された。肩や肘ほど深刻なけがではないが、復帰は後半戦mでずれ込む可能性がある。
6月11日の時点でMLBでプレーする日本の先発投手全員、大谷、田中両投手とシカゴ・カブスのダルビッシュ有投手(右上腕三頭筋)、ロサンゼルス・ドジャースの前田健太投手(右股関節)の4人にシアトル・マリナーズとマイナー契約を結んでいる岩隈久志投手(右肩)を加えた5人が戦線離脱する異常事態にとなっている。
日本選手の活躍に刺激を受け、時には元気や勇気をもらっている人たちにとって、これほど面白くないことはないだろうが、選手たちの苦しい時を見守り、応援するのもファンの役目。戦列復帰を果たし、活躍した時の喜びは2倍、3倍になることは間違いない。
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