目は赤く染まっていた。ボストン・レッドソックスのリック・ポーセロ投手は父と母から祝福のハグを受けると今にも泣き出さんばかりの表情を見せた。
11月16日に発表されたメジャーリーグのサイ・ヤング賞。ナショナルリーグとアメリカンリーグ、各リーグでもっとも優れた投手に贈られる同賞は、ワシントン・ナショナルズのマックス・シャーザー投手が3年ぶり2度目、ポーセロがメジャー7年目で初めて受賞した。
当日はメジャーリーグ専門局、MLBネットワークが自宅? やホテルで朗報を待つ選手の様子を生中継。家族や友人からシャンパン・シャワーで祝福されて奇声を上げたシャーザーとは対照的に静かに喜びを噛みしめたポーセロ。そんな感動的なシーンから数分後、仰天のツイートが投稿された。
「リック、悪いけど、あなたには1位票があまり入ってないよね?だから、あなたの勝ちじゃないよ」。
ポーセロの受賞に不快感をあらわにする短文を次々と書き込んだのは人気モデルのケイト・アップトン。ポーセロに敗れ、次点に終わったデトロイト・タイガースのジャスティン・バーランダー投手の婚約者だった。
サイ・ヤング賞は全米野球記者協会の30人の記者が5人の投手を選び、1位7点、2位4点、3位3点、4位2点、5位1点のポイントをつけ、その合計点で決められる。30人全員から1位票を得た場合、つまり満票は210ポイントとなる。
シャーザーは25人から1位票を獲得するなど、次点のジョン・レスター投手(カブス)に90ポイント差をつけての受賞だった。
ところが、ア・リーグのサイ・ヤング賞に選ばれたポーセロとバーランダーの差はわずか5ポイント。しかも1位票の獲得数はポーセロの8人に対し、バーランダーは14人。先に紹介したアップトンのツイート内容は1位票の結果にツッコミを入れているわけだが、2人の記者がバーランダーに5位以内に入れなかったという事実が美人モデルの怒りを増幅させた。
「彼(バーランダー)は1位票を一番多く取っているのに、2人の記者は1ポイントも入れていないって!?」、「あの2人をクビにすべきだよ」
もし2人の記者がバーランダーにポイントを入れていれば、結果は変わっていた。そんなアップトンの気持ちはわからないわけではないが、すでに決まったことに対して、しかも初受賞に歓喜している相手へのコメントとしては無神経すぎた感は否めなかった。
そんな一連の言動を看過できなかったのがニューヨーク・デイリーニューズ紙のマーク・フェインサンド記者だ。自身のツイッターに「ヘイ、ケイト・アップトン…黙りなさい!ジャスティン・バーランダーがサイ・ヤング賞を獲らなかったことはスキャンダルでもなんでもないんだよ」と書き込み、同じ内容のコラムを紙面に掲載し、たしなめたのだった。
アメリカを代表するモデルとベテラン記者の一騎打ち。そんな様相を呈するなか、2人の間に割って入ったのが、受賞を逃した張本人バーランダーだった。
「彼女は僕が負けたことを怒ってはいなかった。そこは大丈夫だ。ただ、(ポイントを入れなかった2人の記者が)シーズン終了の1週間前に投票したんだって!?」、「彼女(アップトン)が言いたかったのはそこなんだ」。
投稿されたツイートを読んだ後、自分の目を疑った。バーランダーはアップトンが投稿したツイートを消去させるどころか、便乗するような形で記者に食ってかかったのだ。
実質11年で積み上げた勝利数は173。最多勝2回、最多奪三振4回、最高防御率1回。2011年にはリーグMVPとサイ・ヤング賞を同時受賞している。そんなメジャーを代表する投手が取った行動にがっかりした人は少なくないはずだ。
来季、レッドソックスとタイガースは4月7〜10日の4連戦と6月9〜11日の3連戦、計7試合で対戦することが決まっている。2人の投げ合いが実現したとき、アップトンはどんなツイートを投稿するのか見ものである。
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