1930年11月23日生まれ。御年85歳のジャック・マッキオン氏には夢がある。
それは、メジャーリーグの歴代最高齢監督になることだ。
「たしか、コニー・マックが87歳まで監督をしとったはずじゃ。生まれた月はわしより遅い12月。つまり、わしが87歳で監督になってシーズンをまっとうすれば最高齢となるわけだ」
眼鏡の奥の瞳がキラキラ輝いていた。筆者がマッキオン氏からそんな話を聞いたのは昨年3月、マイアミ・マーリンズのキャンプ地、フロリダ州ジュピターで、だった。
現在は同球団の特別職。いわゆるフロントの人間だが、キャンプ期間中はほぼ毎日、ユニホームを着てフィールドに出て選手たちの練習の様子を見守っていた。身長170センチちょっと、体重80キロ強のずんぐりむっくり体型。漫画に登場するキャラクターのようでどこかほほ笑ましい。話をしていて心が癒されたのを覚えている。
ちなみにマッキオン氏が目標とするコニー・マックだが、その経歴がえげつない。1894年、31歳の若さでピッツバーグ・パイレーツの監督に就任。そのときはわずか3年でチームを去るも、その5年後の1901年にフィラデルフィア・アスレチックス(現オークランド・アスレチックス)の監督に。そこから1950年までなんと50年にわたり指揮を執り続けたのだ。ワールドチャンピオン5回は決して多いとは言えないが、年齢と通算3731勝は不滅の記録として燦然と大リーグ史に輝いている。
一方のマッキオン氏の通算勝利数は1051。1973年、42歳のときにカンザスシティ・ロイヤルズでメジャー監督デビューし、オークランド・アスレチックス、サンディエゴ・パドレス、シンシナティ・レッズ、そして、マーリンズを率いた。
中でも『伝説』として今なお語り継がれるのはマーリンズでの2003年のシーズンだ。当時の監督はジェフ・トーボーグが開幕ダッシュに失敗。16勝22敗となったところでクビを言い渡された。後任の白羽の矢が立ったのがマッキオン氏。そこから75勝49敗と巻き返し、ワイルドカードでプレーオフ進出。サンフランシスコ・ジャイアンツ、シカゴ・カブスを撃破してワールドシリーズに進むと、最後は常勝軍団<jューヨーク・ヤンキースを圧倒し、球団史上2度目のチャンピオンリングを手にしたのだった。2005年に一度はユニホームを脱いだが、2011年シーズン途中に再び、監督に抜てき。歴代2位となる80歳での現場復帰だった。
2013年に心臓のバイパス手術を受け、昨年3月に話を聞かせてもらった際には「2週間前に胆のうになって救急車で運ばれたんじゃ」とマッキオン氏。寄る年波には勝てないようだが、「週6日のペースで毎朝2時間、トレッドミルや筋トレで体を動かしておるよ。わしはタフガイじゃから」と血色の良い顔をほころばせていた。
実は昨季も監督の可能性がなかったわけではなかった。球団は成績不振を理由に5月にマイク・レドモンド監督を解任している。当時の戦績は16勝22敗。そう、2003年シーズンを再現するかのような展開だったが、マッキオン氏に声は掛からなかった。
今季は昨季までロサンゼルス・ドジャースの監督を務めていたドン・マッティングリー氏がマーリンズを指揮する。長期的展望に立った招へいだが、プロ・スポーツ界では契約期間中の解任は日常茶飯事。
85歳の老人が抱くでっかい夢。次にマッキオン氏が監督に就任したとき、それは60年以上破られることのなかった記録が更新されることを意味する。
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