当たらない。それは、それは見事な空振りだった。
10年ほど前だっただろうか。メジャーリーグ各球団がシーズンに備えてキャンプを張るアリゾナでソフトボール女子・アメリカ代表のジェニー・フィンチ投手とメジャーリーガーの対決が実現した。レギュラーシーズン中にはありえない、キャンプ地ならではのイベントだった。
ボール、そして、投手と捕手の距離はいずれもソフトボールのルールで行われた。打者は、シアトル・マリナーズのマイク・キャメロン外野手だったと記憶する。2002年5月2日のシカゴでのホワイトソックス戦で史上13人目の1試合4本塁打を記録したスラッガーだ。対するフィンチ投手はのちに行われるアテネ五輪(2008年)でエースとしてチームを金メダルに導いている。他の選手たちも興味津々の様子で見守る中、キャメロン選手はボールにかすることさえできなかった。頭をかく同選手を仲間たちが笑った。
円周が約30センチのソフトボールに対し、メジャー球は約22センチ。投手から捕手までの距離は、前者が13.11メートル(女子)、後者は18.44メートル。時速110キロのソフトボールは体感で160キロを超えると言われている。ウィンドミル投法と呼ばれ、腕を一回転させてるソフトボールの投げ方は、ボールの出どころが「腰から下」に対し、野球は「肩から上」と大きく異なる。よく似たスポーツだが、感覚がまるで違うのだ。どちらが有利かは2人の対決の結果を見れば一目瞭然だった。
さて、つい先日のこと。大きな話題になったニュースがある。フランスの16歳の女の子が、女子選手では初めてメジャーリーグの国際登録リストに入ったというのだ。同リストは、6月に行われるドラフトの対象となる北米(アメリカ、カナダ)とプエルトリコ以外の国でプレーする16歳以上のアマチュア選手が登録されるもので、毎年7月2日が契約の解禁日となっている。近年では中南米の超高校級選手が大型契約を結ぶことから注目を集めている。
フランスの野球少女に関する詳細を伝えたメジャーリーグの公式ホームページによると、その女の子の名前はメリッサ・メイユー。U−18(18歳以下)のフランス代表の遊撃手だといい、そのポジションからも身体能力の高さがうかがい知れる。4月にスペインのバルセロナで行われたドミニカ共和国戦では19歳の男子投手が投げた91マイル(146キロ)の速球をヒットにしたという。
ただし、メイユー選手がプレーするフランスは野球後進国。昨年のワールドカップで4連覇を達成した日本の女子選手が「侍ジャパン」のメンバーに入れないことからも分かるようにフランスのレベルは決して高くはない。現に国際野球連盟(IBAF)が定める世界ランキングでは、日本は男女とも1位に対し、フランスは31位(女子はランキング圏外)。興味深いのは、メイユー選手がソフトボールでも国の代表に選ばれている点だ。こちらは年齢制限のない正真正銘の代表選手。並みの16歳ではないのだ。
昨年のリトルリーグ世界大会では男子選手に混じってプレーするペンシルバニア州代表の少女、モネ・デービス投手が快投を披露し、一躍、時の人となった。本人は野球ではなく、プロのバスケットボール選手になることを目標にしているようだが、スポーツイラストレイテッド誌が投げる姿を表紙で起用。アフリカ系アメリカ人ということもあってあらゆる角度で取り上げられた。デービス投手のほかにも魔球<iックルボールで男子選手を手玉に取る女子高生もメディアに取り上げられた。
メイユー選手の計画では、あと2年、18歳まで母国でプレーした後、アメリカの大学に進学し、さらに野球の技術を磨きたいという。2017年に開催される第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ではフランス代表としてプレーする可能性もある。
史上初の女性選手のメジャーリーグ国際登録リスト入りが、メジャーリーグ球団が女性選手との契約を真剣に検討するきっかけになることは間違いない。実際に女性選手と契約を結ぶチームがあっても不思議ではない。今年初めにメジャーリーグの新コミッショナーに就任したロブ・マンフレッド氏も張り切っている。野球が新しい時代を迎えようとしている。
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