この仕事を始めてそこそこの長さになるがこのパターンは初めてだった。聞けば、前例はないという。
毎年7月第2火曜日に開催されるメジャーリーグのオールスターゲーム。今年の開催地はミネアポリスだった。その前日の月曜日、市内のホテルで行われた記者会見で居心地の悪そうにしている(見える)選手が1人だけいた。
オークランド・アスレチックスのジェフ・サマージャ投手だ。
なるほどね!と手を打った読者はメジャー通か、熱狂的なカブス・ファンだ。そう、サマージャ投手は元カブスの選手。今季の開幕投手を務めるなど、先発陣の大黒柱として低迷するチームを支えてきたのだ。6月を終えた時点で2勝7敗。打線の援護がなく、勝ち星にはまったく恵まれなかったが、防御率は好投手の証しでもある2点台(2・83)。前半戦の成績が大きく反映されるオールスターゲームの選出は確実視されていた。
ところが、オールスター出場選手が発表される2日前にサマージャは同じく先発ローテーションで投げていたジェイソン・ハメル投手とともにアスレチックスへトレードされてしまった。地区最下位で低迷するチームが来季以降を見据えて主力選手をプレーオフに向けて戦力拡充を図るチームに放出し、その見返りに若い有望株を獲得することはよくあること。特に20代でのびしろのあるサマージャ投手は今季終了後にフリーエージェント(FA)となることからシーズン中の移籍は時間の問題だった。
ただ、タイミングが悪すぎた。トレードの2日後。予想どおりサマージャ投手はカブスが所属するナショナル・リーグの一員としてオールスターゲームに選出された。選手間投票で先発投手部門の5位。うれしい初出場。素直に喜べなかったのは、移籍先のアスレチックスがナショナル・リーグではなく、アメリカン・リーグに属していること。オールスターゲームはメジャーを代表する選手が一堂に会するお祭りでありながら、7回戦制のワールドシリーズのホームフィールドアドバンテージ(4試合の主催試合)を懸けた真剣勝負でもある。しかも、今季のアスレチックスは強い。プレーオフ進出は確実でワールドシリーズ進出だってありうる。ナ・リーグの一員として戦うサマージャ投手の胸中が複雑だったことは想像に難くない。
本番当日。ナショナル・リーグの一員として紹介されて整列したサマージャ投手のユニホームはどちらのチームロゴもついていなかった。当然、試合に出場する機会もなし。試合前と試合後、オークランドとシカゴの地元記者らに取り囲まれる光景はやはり違和感があった。
ちなみに、アスレチックスに移籍後の元カブスの2人はそろって先発ローテーションに組み込まれた。7月28日現在、サマージャ投手は4試合に登板して2勝1敗、防御率2・70と好調を維持。一方、カブスでは8勝5敗、防御率2・98だったハメル投手は3戦3敗、防御率7・11とスランプに陥っている。
カブスにとって、2人の放出は大きな戦力ダウンになったが、プラスに作用した選手もいる。昨オフにカブスとマイナー契約を結んだ和田毅投手だ。エースとして活躍した福岡ソフトバンクホークスから11年オフにボルティモア・オリオールズへ移籍。2年の契約を保障されていたが、1年目のキャンプで左肘を痛めるアクシデントに見舞われ、5月に腱移植手術を受けた。結局、メジャーで1試合も投げることなくチームを去った。
手術から2年が経過した今季の和田投手は3Aアイオワで開幕を迎えた。18試合に先発して10勝6敗、防御率2・77。その好投を認められて7月8日にメジャー初登板を果たす。一度は3Aに戻されたが、同23日のパドレス戦で2度目の登板。4回5失点で敗戦投手となったが、中4日でマウンドに上がったロッキーズ戦で7回を1失点で切り抜け、うれしい初勝利を挙げた。
ご存じのとおり、カブスにはもう1人、日本人投手がいる。藤川球児投手だ。メジャー1年目の昨季開幕後に右肘を痛めて手術した。1年の歳月をかけてリハビリに励み、7月に本格的な実戦復帰を果たした。和田投手とは違い、こちらは中継ぎ。ここまで2試合連続登板を2度経験し、メジャー復帰を目前にしている。
7月28日現在、ナ・リーグ中地区の首位にいるミルウォーキー・ブルワーズとは14・5ゲーム差。すでに消化試合の様相を呈しているが、チームには和田、藤川両投手のほかに、目下、ナ・リーグ本塁打部門トップのアンソニー・リッツォ内野手がいる。超有望株のアディソン・ラッセル、ハビア・バエズ両内野手のメジャーデビューはいつになるのかも気になるところ。
弱いからつまらないではあまりにもさびしすぎる。いろんな角度からのぞいてみよう。カブスは見どころ満載のチームなのだ。
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