上方漫才界にトミーズという漫才師がいる。ボケの雅(まさ)とツッコミの健(けん)の2人組。吉本興業(現よしもとクリエイティブ・エージェンシー)が設立したタレント養成学校「吉本総合芸術学院(NSC)」の1期生で、ダウンタウンと同期生だったことでも知られるベテラン漫才師だ。かれこれ25年ほど前になるだろうか、テレビで見た2人のネタを突然、思い出した。
雅「みなさん、アメリカのプロバスケットボール、シカゴ・ブルズのマイケル・ジョーダンの年俸、ナンボか知ってはりますか?」
健「ナンボや?」
雅「30億円ですって。たった1年で30億円。それだけ稼ごう思うたら、わたいら、300年以上働かなあきまへんわ。あはははは」
健「わろてる場合か!」
雅「300年やで、300年。笑うしかないやろ!」
確か、こんなやり取りだったと記憶している。
思い出したきっかけは、スポーツ雑誌「スポーツ・イラストレイテッド」にこのほど掲載された、アメリカ国内のアスリート長者番付だ。同誌によると、2013年の年俸トップはプロボクサーのフロイド・メイウェザーJr.選手の9000万ドル。1ドル=100円換算で90億円である。2位のプロバスケットボール、マイアミ・ヒートのレブロン・ジェームズ選手の5650万ドルに大差をつけての2年連続1位だった。
しかも、番付にある選手のほとんどがCMや広告などの副収入を含んでいるのに対し、メイウェザー選手の場合はファイトマネーのみ。トミーズのネタを拝借するなら「わたいら、900年以上働かなあきまへんわ」という天文学的数字。ボクシング人気のすさまじさを実感させられる金額でもある。
お金つながりで言えば、メジャーリーグが動かしている金額も莫大だ。
現在のリーグは30球団で構成。シーズン開幕時に発表される各チームの総年俸(メジャー登録が可能な40人に支払われる年俸の総額)を見てみると、今季の1位はニューヨーク・ヤンキースで2億2600万ドル。2位ロサンゼルス・ドジャースの2億2000万ドル、3位フィラデルフィア・フィリーズの1億7000万ドルと続く。シカゴの2チーム、ホワイトソックスは全体9位の1億1990万ドル、カブスは同13位の1億450万ドル。最下位はヒューストン・アストロズの2263万ドルだった。1位と30位の差はざっと計算して10分の1である。しかも、アスリート長者番付で10位にランクインされたヤンキースのアレックス・ロドリゲス選手の個人の年俸2900万ドルを1チームの総年俸を下回るという、信じがたい状況にある。
興味深いのは、大枚をはたいたチームが必ずしも勝っていないことだ。これはどのスポーツにも当てはまることだが、メジャーの場合、年間試合数はプロスポーツの中で最多の162試合。短期決戦なら勢いで勝ち抜くことも可能だが、通常、試合数が多くなればなるほど、大番狂わせの確率が減るものである。つまり、能力の高い選手を金で集めたチームが有利となるはずである。ところが、今年も例外はある。1位ヤンキースと2位ドジャースがそうだ。ヤンキースは総額こそメジャー最高だが、来季以降を見据えた年俸抑制でオフの補強はほとんど行わなかった。そのため、評論家やメディアの中にはリーグ最下位を予想する者もあったが、ふたを開けてみれば、5月26日現在、アメリカンリーグ東地区の1位をキープ。しかも、40人のうち、チーム最高年俸のロドリゲス、同3位(2250万ドル)のマーク・テシェーラ一塁手、同5位(1700万ドル)の主将、デレク・ジーター遊撃手ら10人もの選手が相次ぐけがで戦列を離れている。離脱者の年俸総額は約1億1000万ドル。つまり、ヤンキースはシカゴの2チームとほぼ同じ総年俸で貯金10前後の好調を維持しているということになる。対照的なのが、来季以降の総年俸がリーグ1位になることが確実視されているドジャースだ。ヤンキースほどではないが、開幕直後から年俸1900万ドルのエース格、ザック・グリンキー投手、同1575万ドルのジョッシュ・ベケット、1550万ドルのハンリー・ラミレス遊撃手といった主力選手がけがで戦線離脱。昨季後半にレッドソックスとメジャー史上最大級の大型トレードを成立させ、積極的な補強で今季の下馬評は高かったが、現時点でナショナル・リーグ西地区の最下位に沈んでいる。地元メディアの間では早くもドン・マティングリー監督の去就が取りざたされている。
シーズンは4分の1を過ぎたばかり。ドジャースだけでなく、トロント・ブルージェイズやロサンゼルス・エンゼルスなど、実力を発揮し切れていない球団がこれからどう巻き返していくのか。注目度の高かったチームの戦いぶりを追いかけるのも楽しむ奉納の1つだ。
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