嘘つき!
代理人とともに発表した声明文で痛烈に球団を批判をしたのは、元マイアミ・マーリンズのマーク・バーリー投手だ。「元」と書いたのは、その2日前にトロント・ブルージェイズへのトレードが正式に決まったからだ。
バーリーは2011年までシカゴ・ホワイトソックスのエースとして活躍。昨オフにフリーエージェント(FA)となって移籍したマーリンズでもシーズン10勝以上を12年連続で記録し、守備力の高い選手に贈られるゴールドグラブ賞も4年連続で受賞した。
「マイアミが取った行動に私は怒りを覚えます。南フロリダのファンと同じように私もいくつかのことで嘘をつかれました」
僕も取材をしたことがあるが、バーリーは温厚な性格の持ち主だ。マウンド上ではどんな時も冷静な男がここまで怒りをあらわにするのだから余程のことだったのだろう。
複数のメディアの報道をまとめると、“嘘つき発言”の理由は昨オフの交渉過程にあったようだ。ホワイトソックスからFAとなり、最終的にはマーリンズと4年総額5800万ドル(約47億5千万円)で合意したわけだが、通常、複数年契約を結ぶ選手が手にする「トレード拒否権」を球団のポリシーとして認められなかった。ただ、バーリーの代理人が「交渉の席で球団側はマークと家族の生活環境を保障し、新しい球場で勝つチームを作り上げると繰り返して言った」と訴えたように、口頭で「4年間の生活」を約束されたという。
実は、マーリンズの今季にかける意気込みは相当なものがあった。本拠地をNFLのマイアミ・ドルフィンズと併用していたスタジアムから総工費6億3400万ドル(約520億円)の新球場へ移転。名称を「フロリダ」から「マイアミ」に変更し、ユニホームも一新した。それらと並行して大補強も敢行。ニューヨーク・メッツからFAとなったホゼ・レイエス遊撃手を6年1億600万ドル(約87億円)で獲得。バーリーも先発陣強化の一環として迎えられた。
総年俸は前年の5769万5千ドル(約47億円)から2倍近くの1億162万8千ドル(約95億円)まで引き上げた。93年の球団創設以来初の1億ドル突破。一躍、今季のダークホースとなった。新監督には、ホワイトソックス時代のボスでもあったオジー・ギーエンが就任。バーリーも新天地で現役最後になるであろう4年間のメジャー生活を楽しみにしていたはずだ。
ところが、チームはいきなりつまずく。開幕直後にギーエン監督がキューバのフィデル・カストロ元議長を「尊敬している」と発言したことで、亡命キューバ人を多く抱えるマイアミの市民が大ブーイング。“チケット不買運動”にまで発展し、同監督は謝罪するとともに5試合の出場停止を課せられた。
マーリンズが所属するナショナル・リーグ東地区は強豪がひしめく“激戦区”だ。結局、チームは最後まで波に乗れず、終わってみれば、借金24で2年連続の最下位。開幕前の期待はどこへやら、シーズン終了後は粛清の嵐が吹き荒れた。
まずはギーエン監督とソリが合わなかったヒース・ベル投手がトレードに出された。バーリーと同様、新守護神として3年2700万ドル(約22億円)で獲得したベテラン投手をわずか1年で手放してしまったのだ。そして、時間の問題と見られていたギーエン監督の解雇にも踏み切った。極めつけは、11月中旬に明るみになった計12選手が絡んだ大トレードだ。
マーリンズの商談に応じたのはブルージェイズ。バーリー、レイエス、さらに、先発の軸だったジョシュ・ジョンソンら5人に400万ドル(約3億2千万円)の金銭をつけて、同性愛者蔑視で話題になったユネル・エスコバー遊撃手やアデイニー・ヘチャバリア内野手ら20代前半の有望株7人と交換したのだった。
同じ北米でもブルージェイズの本拠地はカナダのトロント。たった1年のマイアミ生活。バーリーが「嘘をつかれた」となるのは当然だった。
ここで忘れてならないのは、マーリンズのオーナーであるジェフリー・ローリアの過去である。02年オフに球団を買収し、臨んだ03年のシーズンにいきなりワールドチャンピオンを手にした。ところが、その後の2年は勝ち越しながらもプレーオフに進めず。しびれを切らしたかのように05年途中から主力選手を次々と放出し、チームの解体に着手。約6000万ドル(約49億円)だった総年俸を1/4の約1500万ドル(約12億円)まで切り詰めた06年は、前年の見る影もないマイナーチームに様変わり。地元ファンの気持ちを無視した行動にただでさえ鈍かった客足はさらに鈍くなった。
見切りの早さは相変わらずか。今回のトレードでマーリンズは約1億6千万ドル(約130億円)の削減に成功。しかし、バーリーだけでなく、残された選手の間にも球団フロントに対する不信感が広がったことは否めない。新球場のオープンで15年ぶりに200万人を突破した観客動員数は再び、減ることになるだろう。
ローリアは画商として財を成した人間だ。カナダ・モントリオールにあったエクスポス(現ナショナルズ)を売った後にマーリンズを買収している。ワールドチャンピオンになれば莫大な金が入るだけでなく、球団の価値も上がる。野球が好きなだけでは球団経営は成り立たないが、ローリアの一連の行動からは野球に対する情熱が感じられない。そのことを選手やファンは気づいているのではないだろうか。
戦った選手や応援したファンには悪いが、今季はこれでよかったと思う。バーリーの発言の真偽はともかく、マーリンズのようなチームは勝ってはいけない。
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