今季のメジャーリーグはセントルイス・カージナルスの5年ぶり、11度目のワールドシリーズ制覇で幕を閉じた。
カージナルスは地区優勝ではなく、ワイルドカードでプレーオフに進出。戦前の予想をことごとく覆す快進撃で駒を進めたワールドシリーズは、最終第7戦までもつれる激戦だった。中でもレンジャーズに王手を掛けられて臨んだ第6戦は9回裏と延長10回裏にいずれも2死から2点を返して同点に追いつき、11回にサヨナラ勝ちを収める劇的な結末。メディアはこぞって「歴史に残るシリーズ」と絶賛した。
第1、2戦は1点を争う接戦。しかし、3戦目以降の試合内容は大味な感は否めなかった。終わってみれば、7試合で計67四球、14失策。カージナルスが驚異の粘りで勝った第6戦も両軍で5失策。序盤に凡ミスが続出する興ざめな部分があったのも事実だ。
そのワールドシリーズ進出をかけたナショナル・リーグ優勝決定戦でカージナルスに敗れたのがミルウォーキー・ブルワーズ。メジャー屈指の若き中軸コンビ、ライアン・ブラウンとプリンス・フィルダーを擁する強力打線にあってメジャー14年目のベテラン、ジェリー・ヘアストンJr.三塁手が存在感を見せた。
今季はワシントン・ナショナルズで開幕を迎え、シーズン途中に補強選手としてブルワーズへトレードされた。その期待にこたえるべく、リーグ優勝決定戦では6試合でチーム最高の打率・391を残した。
内外野をこなすスーパーサブでもある。09年にはニューヨーク・ヤンキースの一員として世界一を経験しているいぶし銀のヘアストンが、実は、メジャー史上3人しかいない『3世代メジャーリーガー』のであることはあまり知られていない。
100年以上の歴史をもつメジャーリーグ。元メジャーリーガーの父をもつ選手は多々いるが、祖父もメジャーリーガーだったのは、ヘアストンのほかにデービッド・ベルとアーロン&ブレット・ブーン兄弟がいるが、どちらもすでに引退。現役ではたった1人しかいないことに「そりゃ、特別なことですよ。おじいさんや父さんがプレーした場所ですからね」と顔をほころばせる。
実はヘアストン一家はシカゴと縁がある。捕手だった祖父のサムはニグロリーグでの活躍を認められ、1951年にホワイトソックスと契約。同球団初の黒人選手としてメジャーの舞台に立った。父のジェリー・シニアもホワイトソックスにドラフト指名を受け、73年にメジャーデビューしている。
「おじいさんがプレーしている映像は見たことがないですね。残っている記録からいい選手だったということしか知らない。父さんのプレーはもちろん、見ています。子供のころはよく球場にくっついて行ってクラブハウスで手伝いをしてましたよ」
メジャーリーガーになることを宿命づけられたかのような家系。アニメ「巨人の星」ばりのスパルタ教育を想像しがちだが、「野球を強制されたことは一度もなかった」とヘアストン。「遺伝だ、って言う人もいるけど、ひとつ言えるのは、僕たち家族は野球が好きだということですね」。
将来はプロ野球選手になりたい。そう思い始めたのは8歳のとき。その夢が目標に変わったのは中学生のころだったという。
「『本当にメジャーリーガーになりたいのか?』って初めて父さんに聞かれたんです。『本気で考えているなら今以上に練習しなさい。メジャーは世界中からすごい選手が集まってくる場所なんだぞ』って。今でもあの時の父さんの言葉を覚えていますよ」。
3児の父でもあるヘアストン。長男のジャクソン君は5歳になる。
「あの子も野球は大好きですよ。メジャーリーガーになってほしいとは思いますが、強制するつもりはありません。ここは本当に厳しい世界ですからね」。
息子に将来の夢を語られた時、父はどんな言葉を贈るのだろうか。
早ければ15年後にも4世代メジャーリーガーが誕生する。
|