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しらないはずはない。あれは間違いなく、確信犯だ。メジャーリーグ機構(MLB)が各球団に通達している禁止項目の中に次のようなものがある。「試合開始30分前から試合終了まで、電子機器を使用してのツイッターやフェイスブック、ブログなどからの情報発信を禁ずる。」開幕から約1ヶ月。早くも違反第1号が出た。シカゴ・ホワイトソックスの監督、我らのオジー・ギーエンがその人だ。あれは4月27日、ニューヨーク・ヤンキースとの一戦だった。球審のストライク判定を不服としてベンチを飛び出し、猛抗議。暴言を吐いて退場を命じられたのだ。ダイジェストを報じたスポーツ・ニュースでは、ギーエンの口にモザイクがかかるほど、声が聞こえなくてもはっきり分かる禁止用語を連発していた。今季初、通算26回目の退場劇は、それで終わればよかったのだが、監督室に戻ったギーエンはまだ静まらない怒りを自身が開設するツイッターにぶつけてしまったのだ。「これでけっこうな金を払うことになるな。ひどい話だ。」一度点いた火はすぐには消えない。さらに、「今日は厄介なやつがヤンキーススタジアムに来やがったよ。」自分を退場にした球審と思われる人物のことにも言及したのだ。まだ試合中のことだ。明らかなルール違反だった。
ツイッターの使い方は人それぞれ。僕はまだアカウントを持っていないし、持つ気もさらさらないが、アメリカの記者はほぼ全員が個人のアカウントをもち、日々、いや、秒単位で情報を発信している。中には、ベンチで取材に応じている監督の隣で、たった今、監督が話したことをカチャカチャと打ち込んでいる記者もいる。いくら速報のスピードが大切とはいえ、そこまでする必要はあるのだろうか。かと思えば、記者との雑談を平気でツイートする者もいる。たちえば、アメリカ人記者が、あまり取材する機会のない日本人選手や日本のプロ野球の話を日本人記者に聞く。「〜らしいよ」という話であっても、そのまま打ち込んでいく。そして、それを読んだ他のメディアがそれを取り上げる。挙句の果てには、日本のメディアがそれを報じる。つまり、ある日本人記者が軽い気持ちで話した内容が、最後はアメリカが報じたニュースとして日本のメディアが取り上げるというまったくばかげた、笑い話のようなことが起こっているのだ。もちろん、ツイッターの中にはしっかりと取材をした精度の高い情報もあるが、すべてがそうではないという悲しい現実もある。
果たして、ギーエン監督はMLBから2試合の出場停止と罰金を命じられた。僕が心配しているのは、監督としての立場だ。今回は、言ってみれば仕事上の愚痴をツイートしたわけだが、それを発信したのは選手たちが勝利のためにフィールドで戦っている最中だ。そして、その勝利は監督の評価につながるということを忘れてしまったのかな、と思ってしまう。ホワイトソックスの監督になって今季が8年目。そのキャラクターはすでに知られており、今回の騒動も「オジーらしい」と言うことになるのだが、残念で仕方がない。MLBから処分が下された日にギーエン監督はこんなことを言ったという。「俺はこれからもツイッターを続けるよ。始めて2年になるが、野球について書いたのは今回が初めてだった。いい教訓になった。でもツイッターは継続するよ。」チーム内に問題が勃発するのは、負けが込み始めた時と相場は決まっている。5月1日現在、ホワイトソックスは10勝19敗でア・リーグ中地区4位と低迷している。これ以上、問題が起きないことを祈るばかりだ。
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