ほら、言わんこっちゃない。
日本から飛び込んできた情報に、思わず、そんな言葉が口をついた。
「タイガースがメンチに見切りをつけて新しい助っ人を探すことになりました」
メジャーリーグのデトロイト・タイガースの話ではない。日本プロ野球の阪神タイガースのことだ。
そのタイガースが強打&堅守の外野手として大きな期待をもって、ケビン・メンチを1年1億8000万円(推定)の契約で迎えたのは昨年12月。その時点で分かっていたのは、メンチは決して堅守の外野手ではないということ。そもそも足が速くないのだから広い外野を守れるはずがない。確かにパワーはある。メジャーには02〜08年に在籍し、04年に26本、05年に25本のホームランを打っている。アベレージヒッターか、パワーヒッターか、と問われれば後者ということになるのだが、それも抜きん出たパワーではない。
にもかかわらず、球団の首脳陣や経営陣は、スカウトからのレポートや“いいとこ撮り”のビデオを見て獲得にGOサインを出した。腕が太くて強面の平凡な外野手に2億円近くの金を払ってしまったのだ。
そして、迎えた実戦。“強打&堅守”はどこへやら、オープン戦で不振を極め、公式戦が始まっても状況は変わらず。チームも勝てないとなれば、真っ先にケープゴートにされるのは自然な成り行き。日本から「新助っ人獲得」の話が入ってきたのは2度目の2軍落ちが決まった直後だった。
いったい、阪神のスカウトはメンチのどこを見ていたのだろうか。
もちろん、逆のケースもある。メジャーリーグの球団が大枚をはたいて獲得した日本人選手が期待どおりの働きをしてくれず、見切りをつけたパターンだ。
その最たる選手が、阪神から06年オフにポスティング制度を利用してニューヨーク・ヤンキース入りした井川慶投手だ。
ヤンキースは当時阪神のエースだった井川の独占交渉権に2600万194ドルを投じ、5年2000万ドルという大型契約で合意した。実はその直前にボストン・レッドソックスが松坂大輔投手と交渉権と年俸で総額1億ドルを投じたばかり。松坂獲りに失敗したヤンキースの意地にも見えた。
07年シーズン。井川は開幕から6試合に登板した後、早くもマイナー降格を言い渡された。その後、メジャーに再昇格して最終的に14試合に登板したが、翌年の7月には事実上の戦力外通告を意味する「登録40人枠から除外」の措置を取り、現在は3Aの先発投手として投げ続けている。
07年オフに好条件でメジャー入りした中継ぎ投手2人も同じような道をたどった。
テキサス・レンジャーズと2年300万ドルで合意した福盛和男投手は元楽天ゴールデンイーグルスのクローザーだった。右ひじ痛で長期離脱した大塚晶則投手との入れ替りで入団。過去2年、セットアッパーや抑えで97試合に登板し防御率2点台を残した大塚の姿と福盛を球団が重ね合わせても不思議ではなかった。
しかし、結果は4月に4試合に登板しただけで、チームは早々と福盛にマイナー行きを通告。成績は勝敗なしの防御率20・25。5月には選手登録40人枠からも外された。今も籍はレンジャーズにあるが、球団がトレード先を模索しているという話もあり、いまだに投げる場所が決まっていない。
カンザスシティ・ロイヤルズは元千葉ロッテ・マリーンズの薮田安彦投手と2年600万ドルで契約した。05年にセットアッパーとし千葉ロッテの日本一に貢献。06年には第1回WBCの日本代表のメンバーだった。
しかし、公式戦では投球が安定せず、開幕から2カ月余りでマイナー降格。9月のロスター拡張に伴い、メジャーに再昇格したが、11月に登録40人枠から外れた。1勝3敗、防御率4・78という結果を残して。
選手の評価は難しい。ただ、プロのスカウトを自称するなら、選手個々の特性や力量の見極めることぐらいはできてもいいはず。仮に代理人から強い売り込みがあったにしても、これではあまりにもお粗末すぎる。
メンチの2度目の2軍落ちから1週間あまり、阪神は昨季まで西武ライオンズでプレーしていた“強打”のクレイグ・ブラゼル内野手と合意した。
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