北京五輪が終わった。
アメリカに住んでいても日本の選手たちの結果は気になるところ。金メダル9個は、過去最多となった前回大会のアテネの16個には遠く及ばなかったが、僕はそれを「惨敗」とは全く思っていない。もちろん、メダルは大いに越したことはないが、全力を出し切った結果なのだから、それをとやかく言いたくはない。だから、メダルを取れなかった選手たちの「申し訳ない」という言葉に違和感を覚える。それは、国民の大きな期待にこたえられなかったことに対する正直な気持ちなのだろうが、謝る必要は無い。「最善を尽くしましたが、力及びませんでした」。それで十分じゃないか。
例えば、アメリカの選手。金メダルの期待がかかった陸上の4x100リレーでアンカーがバトンを落として準決勝で敗退した。第4走者のタイソン・ゲイは「批判は僕が受ける。仲間たちをがっかりさせてしまった」とは話したが、最後まで“謝罪”の言葉は無かった。そこは、民族性、個々の性格によるところもあるが、どんな結果にも胸を張ってほしい。
「申し訳ない。ただその一言です」。そう言ったのは、野球の日本代表、星野仙一監督だ。「金しかいらない」。そう公言して臨んだ今大会は、準決勝で韓国に、3位決定戦でアメリカに完敗して、メダル獲得ならず。銅メダルの前回に続いてオールプロ(出場を認められていないメジャーリーガーを除く)のベストメンバー(?)を組んで4勝5敗。マリナーズのイチロー外野手らメジャーリーガーも参加した06年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で優勝していることで期待のハードルが高かった分だけ、その落胆も大きかったのは確かだった。この結果に対し、星野監督は「何を言っても言い訳になる」、「日本の野球はたまたまこの時期は体調面、技術面を含め、ベストではなかったということの責任は監督である私の責任です」と言った。その一方で、こんな発言もしている。「最初の試合(キューバ戦)で投手も野手も怖々やってしまった。(それからは)他の世界でやっている感じだった」
「優勝した韓国とも互角に勝負したが、負けたということは何かが足りなかった。それが野球に対する思いが(相手の方が)強かったのかと終わってみれば考えます」。これらを選手が言ったのなら納得できる。“責任者”言ってはいけない。だから、星野監督の「申し訳ない」は、他の選手や関係者の「申し訳ない」ほど重みが感じられない。堂監督は4年前のアテネでは現地に飛んで、解説も努めていた。上位に残った国の戦いぶり、今回の批判の対象となった審判の実力、日本のプロ野球とは異なるストライクゾーンなど、自分の目でつぶさに見てきたのではなかったのか。その経験はどこに生かされたのだろう。もっとも驚いたのはこの言葉。「もっとパワーで押さえ込むということがわれわれになければ。もっと国際試合をたくさんして、厳しさを知っている人たちがこういう大会に出るべき」。えっ?機動力や小技を駆使してつないでいき、優れた制球力と安定した守備で失点を防ぐのが日本の野球だと思っていた。監督が五輪が国際大会であることを認識してメンバーの人選に当たったのだと思っていた。矛盾と言っては失礼か。
2012年のロンドン五輪で野球が正式種目から外れることが決まっている。つまり、来年3月に行われる第2回WBCが事実上の野球最強国を決める舞台となる。五輪との2冠を狙う韓国。惨敗した前回大会の雪辱を期すアメリカ。キューバ、ベネズエラ、ドミニカ共和国、プエルトリコといった中南米の強豪国。日本の連覇は決して簡単ではない。3位決定戦で敗れた2日後、帰国会見で星野監督は日本プロ野球組織(NPB)から日本代表監督就任の要請を受けていることを明かした。なぜ、このタイミングで?この場所で?その2日後、加藤良三NPBコミッショナーは「聞いていない」と言った。どういうこと?選手たちはついていくのだろうか。
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