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大リーグにおける禁止薬物使用に関する報告書「ミッチェル・レポート」が昨年末に発表された。約90人の選手が実名で記された全409ページは、米国のみならず、多くの大リーグ選手を送り出している南米諸国、外国人選手が多数プレーしている日本にも大きな衝撃を与えた。
思わず ”暴露本“的な興味で捕らえてしまいがちだが、その狙いは、野球選手のみならず、スポーツに関わる人間の意識を変えること。そして、今回の報告書の最大の趣旨は、後遺症の危険性をもつ薬物から未来ある子供たちを守るだということを忘れてはいけない。
しかし、事実としてあるのは、「なぜアイツの名前は出ないんだ!」「なぜヤンキースの選手ばかりで、レッドソックスはいないんだ!」と怒っている輩がいること。大リーグ全体にたまった膿を出し切るのにはまだまだ時間がかかりそうな気がしてならない。
と、新年早々、暗い話になってしまったが、明るい話題に切り替えよう。
すでにご存知のように、日本からシカゴに新たなスター選手がやってくる。
昨年12月にカブスと契約を結んだ福留孝介外野手がその人だ。
簡単にその経歴を紹介すると、PL学園、日本生命をへて、98年ドラフト1位で中日ドラゴンズ入り。主力として9年間プレーし、通算打率・305、192本塁打、647打点を残した。02年に初の首位打者を獲得し、06年には首位打者とリーグMVP、ゴールデングラブ賞4回、リーグ最高出塁率3回。つまり、走攻守を兼ね備えた選手なのだ。
契約内容もその能力にふさわしい。4年4800万ドル(約54億円)。目玉が飛び出るほどの数字だ。1年平均にして1200万ドル(約13億4000万ドル)は、日本出身の選手が大リーグ1年目に結んだ契約としては、イチロー、松井秀喜、松坂大輔ら各選手を圧倒している。
今オフは、ドジャースに入団した元広島の黒田博樹投手が3年3530万ドル(約40億円)、元ロッテの小林雅英、薮田安彦両投手はそれぞれインディアンス、ロイヤルズと2年600万ドル(約6億7000万円)で合意。福留選手だけでなく、多くの選手が日本の年俸を大きく上回る年俸を得たのでる。
この ”好景気“ぶりを「日本人バブル」と形容したメディアもあったが、違和感を覚えるのは僕だけだろうか。こういう考え方はできないだろうか。日本の野球が大リーグの野球と同じレベルとみなされるようになった、と。
確かに、今オフのFA市場は ”不作“という背景がある。しかし、それは投手に当てはまることであって、福留選手のポジションである外野手は、トリ・ハンター(エンゼルスと5年9000万ドルで合意)、アンドリュー・ジョーンズ(ドジャースと2年3620万ドルで合意)ら ”豊作“といっていい。
そんな中でカブスが福留選手に提示した条件は、破格ではなく、妥当。現にジャイアンツへFA移籍したアーロン・ローワンド外野手が得た契約は5年6000万ドル(約67億円)。1年平均は福留選手と同じ1200万ドル。自己最高のシーズンとなった07年の成績は打率・309、27本塁打、89打点。ゴールドグラブも受賞した。福留選手より契約年数が1年多いのはメジャーでの実績を加味したものか、代理人の腕か。
それはともかく、今オフの日本人選手に対する評価は、一時的な ”バブル“ではなく ”新たな物差し“が作られたと言える。その裏には、野茂英雄投手から始まる日本人選手の活躍、06年に開催されたWBCでの日本の世界一などがあることは言うまでもない。
カブスのファンは、メジャーで最も熱狂的とも言われている。彼らの福留選手への期待は相当なはずだ。今、福留選手の心を占めているものは、重圧よりも自身への期待、見る者の目を楽しませてやるという自信であってほしい。
大暴れする姿を早く見たい。
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