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大リーグ、セントルイス・カージナルスのデービッド・エクスタイン遊撃手が好調だ。5月29日現在の打率は・328。64安打はナ・リーグで最多の数だ。チームメートには驚異的なペースで本塁打と打点を量産しているアルバート・プホルス一塁手がいるが、地元ファンの声援は引けを取らない。
長打をガンガン打つわけでもないし、アクロバティックな守備をするわけではない。どちらかと言えば、地味なタイプだが、昨シーズンはオールスターに選出されたのは、基本に忠実な打撃と守備できるところにある。そして、もう1つ大きな要因が彼のサイズだ。5フィート7インチ(約170センチ)、165パウンド(約74キロ)は、現役大リーガーの中では最も小さい。大男に負けない存在感が見る人の共感を呼んでいるのだろう。
ふと、思う。大リーグ史上最も小さな選手はだれなのか?
いた!それも、座ったキャッチャーよりも小さな選手が。そんなウソのような選手がプレーしたのは、1951年8月19日、セントルイス・ブラウンズ対デトロイト・タイガース戦のことだ。ブラウンズの本拠地、スポーツマンズ・パークで行われたダブルヘッダーの2試合目。1回裏の攻撃で、いきなり、ブラウンズのザク・テイラー監督がベンチから飛び出し、代打をコールした。
そこへどこからともなく、フィールドへ運び込まれた7フィート(約210センチ)のケーキ。中から出てきたのは、ブラウンズのユニホームを着た小さな小さな選手だった。身長3フィート7インチ(約109センチ)、体重65パウンド(約29・25キロ)。背番号は「1/8」。子供ではない。26歳の青年、エディ・ガエデル選手だ。実はこの日はアメリカン・リーグ誕生50周年の記念日。それに合わせて、アイデアマンであるブラウンズのオーナー、エディ・ヴェック氏がサプライズを計画したというわけだ。その日朝にガエデル選手と100ドルで契約を交わして選手登録。タイガースのレッド・ロルフ監督が抗議したが、すでに審判も承認済み。あえなく却下された。
もちろん、18369人の地元ファンは大喜びだ。どよめきと大歓声が渦巻く中、すそとそでをだぶつかせたガエデル選手がおもちゃのようなバットを手に右打席に入る。その打撃フォームはというと、両足を大きく開いて腰を極限まで落として体を丸めたクラウチング・スタイル。ひざをついた捕手よりも小さい。ストライクゾーンの広さはわずか1・5インチ(約3・75センチ)。針の穴を通すコントロールとはまさにこのことだ。
マウンド上のボブ・ケイン投手は動揺を隠せない。相手が打たないと分かっていても、そこまで制球できるはずがない。投げたボールはすべて打者の頭上を通過。ストレートのフォアボール。バットを置いてチョコチョコと一塁へ走ると、代走を告げられたガエデル選手。客製はスタンディングオベーションで彼を迎えた。
結局、ガエデル選手の出場はこれが最初で最後。その2日後に契約を解除されお役御免。それでも、1試合に出場して1四球、出塁率10割の記録は大リーグ史の1ページにしっかりと刻まれ、“伝説の選手”として人々の間で語り伝えられている。
大きくて強い選手の中で存在感を示し人気を集める小さな選手たち。ガエデル選手は、その究極のプレーヤーなのかもしれない。
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