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初めてメジャーリーガーが出場した野球の国別対抗戦「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」は日本の優勝で幕を閉じた。カリフォルニア州サンディエゴで行われた準決勝の韓国戦のテレビ中継は、日本で平均視聴率36・2%、瞬間最高50・3%、決勝のキューバ戦では平均43・4%、最高56%という紅白歌合戦並みの数字を記録した。米国代表が2次リーグで敗退したため、米国での注目度は薄れたが、日本では社会現象になるほどの熱狂ぶりだった。
その決勝戦。日本の引き立て役となってしまったキューバは5回までに0-6と劣勢を強いられながら、六回の集中打で3点を返し、八回には2ラン本塁打で猛反撃する健闘。大リーグにはホワイトソックスのホセ・コントレラス、ナショナルズのL・ヘルナンデス、ステロイド疑惑の渦中にあるラファエル・パルメーロら、第一線で活躍する選手がいるが、今回はメジャーリーガーなしのチーム構成。準決勝のドミニカ共和国をはじめ、プエルトリコ、ベネズエラという優勝候補筆頭格を撃破しての決勝進出の意義は大きい。
実は、キューバは ”アマチュア最強“とも呼ばれる野球国。今回のWBCを含め、国際大会では37回連続決勝進出という驚異的な強さを誇っている。その内訳はオリンピックが4回、ワールドカップ20回、インターコンチネンタルカップ12回。キューバが最後に決勝進出を逃したのは1951年のワールドカップ。つまり、この55年間、必ず金か銀メダルを取り続けてきたというわけだ。
キューバ出身の大リーガーは前出の2人のほかに、ホセ・カンセコらもいるが、その全員が亡命者だ。キューバ人が大リーグでプレーするためには国を脱出する以外に手はないわけだが、その理由が1962年にジョン・F・ケネディ大統領が行った経済制裁。社会主義国であるキューバが当時の米国の最大敵国、ソビエト連合と外交関係を結んだことに端を発している。
亡命するしか大リーグでプレーする機会を得られない。そんな国の代表選手が米国にやってきた。何が起こってもおかしくない。ましては、21歳のユリエスキ・グリエル二塁手、25歳のフレデリッチ・セペタ外野手ら才能あふれる若者がたくさんいる。宝の流出を防げとばかりに国が神経をとがらせるのも無理はなかった。
その神経質ぶりはこんな感じだ。2人1部屋。これはお互いの行動を監視するためと言っていい。ホテルの各階にセキュリティを配置。さらに、外出できるのは、球場までの往復と、昼食、夕食の時だけ。それ以外の時間は部屋で過ごす。個人行動は許されず、すべて団体行動だという。
先ほど、 ”アマチュア最強“と書いたが、厳密に言えば、キューバ代表は全員が自国のリーグでプレーするプロの選手だ。ただ、社会主義国とあって月給はわずか20ドル。最低年俸32万7000ドルの大リーグとは雲泥の差がある。ちなみに昨季のコントレラスの年俸は850万ドル。キューバ選手にとって想像を絶する夢の世界というわけだ。
約1週間の米国滞在。今回は亡命者がいなかったが、選手に接触しようとした人間もいたという。キューバの関係者は胸をなでおろしていることだろう。
現在、ブッシュ政権の下、米国はキューバへの経済制裁を解除する方向に向かいつつある。大リーグにキューバ出身選手が増えれば、試合がもっと面白くなるのは間違いない。
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