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だれもがこれで大丈夫だと思った。
昨年12月5日、テキサス州ダラスで開催された大リーグ恒例のウィンターミーティング。約400人の取材陣と関係者で満杯になった会場で3月に開催されるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の詳細が発表されたのだ。
WBCとは野球の国別対抗最強国決定戦のこと。これまで野球の世界選手権は実施されていたが、あくまでもアマチュアによるチーム構成。今回は大リーガーや各国のプロ選手を加えた ”真の世界一“を決めようというものだ。大リーグ機構(MLB)が長年、温めてきた企画であり、ようやく実現にこぎつけたイベントなのだった。
この日の発表で注目を集めたのが、出場に同意した大リーガーたちの名前だ。総勢177人。年間70本塁打の大リーグ記録をもつバリー・ボンズ、メジャー最多となるサイ・ヤング賞7度のロジャー・クレメンス、8年連続30本&100打点をマークしているマニー・ラミレスといった、将来の殿堂入りが確実とされている面々、シカゴの選手ではカブスのデレック・リー、ホワイトソックスのマーク・バーリーらの名前も入っていた。
その中で一際、注目されたのが、ヤンキースのデレック・ジーターだ。実は、メジャー30球団のうち、唯一、WBC開催に反対したのが、ジョージ・スタインブレナーがオーナーを務めるヤンキースだった。チームのキャプテンでもあるジーター、そしてもう1人のスーパースター、アレックス・ロドリゲスも出場に同意。これでメジャー30球団の足並みがそろった。加えて、参加に難色を示していたアマチュア最強国、キューバも16番目の国としての出場も発表された。
もう大丈夫。その時はだれもがそう思った。
ところが、会見終了後、「これでは真剣勝負にならない」と怒っている国があった。日本だ。日本野球機構コミッショナー事務局から派遣されたスタッフが指摘したのは、WBC特別ルールとなっている「投球数制限」だった。開催時期の3月といえば、大リーガーたちが4月の公式戦開幕に備える時期。特に野手よりも調整が難しい投手が、3月から100%の力で投球することはまずありえない。けがでもしてシーズンを棒に振ろうものなら、シャレにもならない。というわけで、投手をけがから守るために球数制限を採用したのだった。
日本はそこに噛み付いたのだ。「出るとなれば、本気を出すのが日本」とスタッフ。しかし、米国代表の監督を務めるバック・マルチネスは「球数が決められることで投手も安心して投げられる。力を出し切れるという意味ではもっとエキサイティングな試合になると思う」と正反対の意見を口にした。
さらに、詳細発表から9日後、キューバ不参加の可能性が浮上したのだ。米財務省の海外資産管理事務所がキューバに対する経済制裁に関連する受け入れ拒否としてチームの派遣を認めない見解を明らかにしたのだった。その翌日には、ニューヨークの地元紙がロドリゲスが一転して不参加を決断したと報道。本人はアメリカ生まれだが、両親がドミニカ共和国出身のため、どちらかの国の代表としてプレーできないというのがその理由だという。
「WBCがワールドシリーズを越える野球イベントにはならない。MLBもそれを望んではいない」という声もある。WBCは3月2日、予選プールAの韓国対台湾で幕を開ける。もう大丈夫! と言える日は訪れるのだろうか。
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